「パートナーセールスが重要と言われる理由は?」「直販との違いは?」「どうすればパートナー網を活かし成長できるのか?」といったことが気になるのではないでしょうか。
SaaS・IT業界だけでなく、さまざまな業界でパートナービジネスが急拡大しています。特に単価の高いBtoB商材や地域展開が必要なサービスでは、もはや欠かせない販売モデルです。結論から言えば、パートナーセールスとは「自社以外の企業(販売代理店など)と協力し、自社製品やサービスを間接的に販売する手法」のことです。 自社のリソースだけで売る「直販」とは異なり、他社の顧客基盤やブランド力を活用することで、爆発的な市場シェア拡大を狙えるのが最大の特徴です。
しかし、実際には「代理店を増やしたのに売上が伸びない」「パートナーが動かない」と悩む企業も少なくありません。パートナーセールス戦略を成功させるためには、自社に合ったパートナーを選定し、成功事例の共有や適切なインセンティブ設計が欠かせません。
パートナーセールスとは何か、重要性やメリット・デメリットを解説していきます。仕事内容、成功のポイントまで体系的に整理していくのでパートナー戦略の採用を判断する参考にして下さい。
パートナーセールスとは

パートナーセールスとは、外部のパートナー企業(代理店)の支援を通して自社製品・サービスの販売を行う営業活動のことです。
自社の役割は個別の商談をこなすのではなく、代理店が売れる仕組みを整えることです。製品研修や共同プロモーション、成功事例の型化などを通じてパートナーが自律的に動け売りやすい体制を支援することです。「売ってもらう」のではなく、「パートナーの売り上げを共に作る」という共創のスタンスが重要になります。
「パートナー営業」「セールスパートナー」と呼ばれることもあり、SaaS(例:CRM、MA、会計ソフト)では一般的なモデルです。
【直販(フィールドセールス)との違い】
| 項目 | 直販 | パートナーセールス |
|---|---|---|
| 営業主体 | 自社の営業 | 外部企業(代理店) |
| 拡大スピード | 人員増に比例 | パートナー数 × パートナー力に比例 |
| コスト | 固定費中心 | 変動費中心(成果報酬型が多い) |
| 影響範囲 | 自社の働き次第 | パートナー企業の営業力で変動 |
特にSaaSではパートナーセールスによるチャネル構築がスケール戦略の中心となっています。
パートナービジネスが広がる背景
パートナービジネスが広がる背景としては、以下のような市場環境が後押ししています。
- SaaSのクラウド化により全国どこでも販売可能になった
- 導入支援・運用支援など伴走型のサポート需要が増加
- 顧客が地域密着型のIT企業を信頼する傾向がある
- 企業が営業を増やさず売上を伸ばす方法を求めている
SaaSのクラウド化により、物理的な制約がなくなり製品の販売可能地域は全国へと拡大しました。しかし、顧客側では単に製品を導入するだけでなく、導入支援や運用支援を含む伴走型のサポートに対する需要が顕著に増加しています。これは、ITシステムがビジネスに不可欠になるにつれて、導入後の成功と安定稼働を重視する傾向が強まっているからです。
特に、顧客は地域密着型のIT企業に対して、高い信頼性を置く傾向があります。このことは全国展開の可能性がありながらも、顔の見える関係性や迅速な対応が可能なローカルなパートナーシップが依然として重要であることを示しています。こうした市場環境の中で、多くの企業は営業人員を増やすことなく、効率的に売上を伸ばす方法を模索しています。
今後は全国販売の可能性と地域密着の信頼性を両立させつつ、増大する「伴走型サポートの需要」に応えることが、効率的な成長を実現するための鍵となります。具体的には、既存顧客の満足度を高めるサポート体制の強化や、地域パートナーとの連携モデルの構築が重要となります。ただし、すべてのパートナービジネスが成功するわけではなく、成果を生むかどうかはベンダー側の戦略設計とパートナー選定・育成の質に大きく左右されます。
パートナーセールスとは、単なる販売代行ではありません。共通目標を持つビジネス共同体であり、成功には「選定・育成・共創」が不可欠です。
パートナーセールスの重要性
パートナーセールスの重要性を確認しておきましょう。
- 直販だけでは幅広い層にアプローチできない
- キャズムを超えるために重要
直販だけではアプローチできる層に限界があります。パートナーがいることで市場浸透スピードが加速し、キャズムを超える鍵になります。
直販だけでは幅広い層にアプローチできない
直販営業だけで全国・全業種・全規模のターゲットにアプローチするのは現実的に不可能です。リソースには限界があるからです。パートナーセールス(パートナー営業)を組み合わせることで初めて市場全体を狙えるようになります。直販営業は強力ですが、以下の限界があります。
- 自社の人員・時間・地理的制約に左右される
- ニッチ産業・地方市場に入り込めない
特にSaaS領域では、直販モデルだけでは市場拡張に限界があります。業界特化型・専門領域ほど第三者の信頼が重要とされます。
一方で、パートナー企業はすでに保有している顧客基盤を活用できるため、直販では届かない層にも一気にアプローチできます。直販だけでは、地理的・業界的な制約により、どうしてもリーチできない市場が生まれます。また、顧客獲得コスト(CAC)の高騰が課題になりやすく、リソースの関係で十分に攻めきれない領域が出てくるのも現実です。既に顧客との関係性を築いているパートナーと組むことで、短期間で市場カバレッジを大きく高めることが可能になります。
例:
- ITコンサルが導入提案とセットでSaaSを販売
- 地場のSIerが地元中小企業に向けてITサービスを展開
ただし、パートナーを増やすだけで市場が自動的に広がるわけではなく、役割設計や支援体制が不十分な場合、かえって成果が分散・停滞するリスクもあります。直販を否定するものではなく、成長フェーズに応じた補完戦略としてパートナーセールスが採用されていることが、複数の業界事例から示されています。
キャズムを超えるために重要
テクノロジー系サービス、とくにSaaSやITソリューションが一部の先進企業だけでなく、一般的な企業にまで普及するためには、キャズム(初期市場とメイン市場の溝)を超える必要があります。その橋渡し役として、パートナーセールスは極めて重要な役割を果たします。
初期ユーザーは新しい技術を積極的に受け入れますが、メイン市場の企業は「失敗しない選択」を重視します。そのため、実績や安心感がなければ導入に踏み切りません。この層は、普段から取引のあるSIerやコンサルなど、身近で信頼できる存在の推奨によって初めて動くケースが大半です。
また、導入後の不安が強いため、地域パートナーが「導入から運用まで伴走します」と保証できることが、大きな後押しになります。さらに、パートナーは同一業界や地域に複数の顧客を抱えているため、1社の成功事例が連鎖し、短期間で「使うのが当たり前」という空気をつくれる点も大きな強みです。
パートナーセールスとは他社の顧客基盤や信頼を活用し、自社製品を間接的に販売する手法です。 特に新市場への浸透(キャズム超え)を目指す際、パートナーは信頼の橋渡し役として不可欠な存在となります。ただし、パートナーに任せれば売れるわけではありません。プロダクトが市場に適合していること、成功事例の共有やメッセージの統一などが大前提であり、自社のPMF達成とパートナー戦略は事業成長における「車の両輪」です。
パートナーは販路であると同時に信頼の媒介者でもあります。市場拡大フェーズでは、パートナー活用の有無が成長速度を左右します。
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パートナーセールスのメリット

パートナーセールスのメリットは以下です。
- 効率よく販路を拡大できる
- 営業コストを削減できる
パートナーセールスのメリットは、販路拡大のスピードが速く営業コストも下げられることです。事業のレバレッジ効果が最も大きい営業モデルです。特にSaaS・BtoBでは、限られた自社リソースで売上を最大化するためのレバレッジ装置として機能します。
効率よく販路を拡大できる
パートナーセールスの最大のメリットは、自社だけでは届かない顧客層・地域・業界へ、一気に販路を広げられる点にあります。その理由は、パートナーがすでに見込み顧客との関係性を持っているからです。
自社がゼロからリードを獲得するのに比べ、既存顧客に新サービスを提案するほうが短期間で成果につながります。例えば、自社営業の新規開拓では初回商談まで平均3〜6ヶ月かかるのに対し、パートナー経由では既存顧客への追加提案となるため、1〜2ヶ月で商談化するケースが一般的です。
すでに深い付き合いのあるパートナー企業からの提案は、知らないベンダーの営業よりも受け入れられやすい傾向があります。特に地方や専門業界では「誰が言っているか」が極めて重要であり、パートナー経由の方が商談化率は高くなります。
直販では多くの場合、都市部やメジャー業界が中心になりがちです。一方でパートナーは、自社から見ればニッチな業界や地方の中堅・中小企業に強みを持つケースが多く、ロングテール市場を刈り取る役割を担えます。
フランチャイズ型のパートナーモデルでは、1社との契約で複数拠点・複数営業所が動くこともあります。その結果、自社だけでは追いつかないスピードで営業網を拡大することが可能になります。例えば、会計SaaSが税理士をセールスパートナーとすることで、顧問先である小規模事業者やフリーランスに一気に展開できます。1つの税理士法人が100社以上の導入を生み出すケースも珍しくありません。
また、業務システムを提供するベンダーが地域密着型のSIerとパートナーを組み、「既存の基幹システム+新しいSaaS」をセットで提案することで、自社の知名度が低い地方でも短期間で導入企業数を伸ばすことができます。
各パートナーは、複数業種・複数規模の顧客と接しています。そのため、「どこでハマるか」「どこでつまずくか」といったプロダクトフィードバックが集約され、改善スピードの向上にもつながります。さらに、パートナー独自のセミナーやイベント、メルマガに自社商材が掲載されれば、広告費をかけずに露出と認知を広げることも期待できます。
ただし、パートナー数の適正値は、商材・市場・自社リソースによって異なります。
パートナーの数の目安は以下を参考にして下さい。
- 立ち上げ期: 5〜10社(厳選して深く育成)
- 成長期: 20〜50社(優良パートナーを中心に拡大)
- 成熟期: 50社以上(ただし上位20%が売上の80%を占める)
パートナー数を増やすこと自体が目的化すると、提案品質のばらつきやブランド毀損を招く恐れがあるため、明確な選定基準と支援体制の設計が不可欠です。
営業コストを削減できる
パートナーセールスのもう一つの大きなメリットは、営業コストの大部分を成果連動の変動費に置き換えられる点にあります。特にSaaSのようにLTVが大きい商材では、売上が立つたびに手数料を支払うモデルの方が、固定費型の直販よりもリスクを抑えやすくなります。
パートナーセールスは、自社で営業人員を増やす場合に比べて、固定費を大幅に抑えられるモデルです。自社採用では、採用コスト・給与・社会保険・育成期間といった費用が必ず発生し、売上が出ていなくても固定費として支出が続きます。
さらにパートナーモデルでは、教育コストも共通化しやすくなります。オンボーディング資料やeラーニング、ウェビナーを整備すれば、複数のパートナーへ横展開が可能です。直販拠点を増やす場合に必要となる、オフィス費用や交通費・マネジメント層といった間接コストも削減できます。また、パートナーが既存商材と組み合わせて提案することで、クロスセルやアップセルが生まれやすくなります。その結果、単品販売よりも高単価なパッケージでの販売が可能になる点もメリットです。
一方で、売上に連動した手数料は変動費ですが、パートナーセールスには相応の初期投資が必要なことは認識しておくべきでしょう。
- 専任担当者の人件費
- 教育プログラム開発
- PRMシステム導入
など、最低でも年間2,000万円程度の先行投資を見込む必要があります。中長期で見れば営業コストを抑えられますが、短期的には固定費が先行します。立ち上げ期の資金繰りを考慮した上で採用判断すべきです。
このようにパートナーセールスは、固定費を増やさずに売上の上振れを狙えるモデルであり、特にスタートアップとの相性が良い手法といえます。ただし、初期設計を誤ると手数料率の高騰やチャネル管理コストが膨らむ可能性があるため、直販とのバランスを踏まえた設計が重要です。
パートナーセールスのデメリット
パートナーセールスのデメリットとしては、以下が挙げられます。
- パートナーの管理が難しい
- 成果が出るのに時間がかかる
- チャネルコンフリクト
パートナーの管理の難易度は高く、成果が出るまで時間もかかります。適切な教育・関係構築・成功体験の共有が不可欠です。短期で成果を求めすぎると失敗しやすいことは理解しておきましょう。
パートナーの管理が難しい
パートナーセールスは契約して終わりではなく、むしろ契約後の比重が大きいモデルです。多くの企業が苦戦する理由は、パートナー側の体制や理解度が自社と同じとは限らない点にあります。パートナーの営業力・組織構造・優先順位・商材理解は均一ではありません。さらに、担当者ごとのスキル差も大きいため成果のばらつきが生まれやすくなります。
さらに、パートナー企業には複数商材が存在するケースが一般的で、売りやすい商材があればそちらを優先され自社商材が後回しになることも少なくありません。また、情報共有の頻度が低い場合、進捗・課題・改善点が見えにくくなり、成功パターンを再現できない状態に陥りがちです。
これらの理由から、成功企業はパートナー成功のための仕組み作りに力を入れています。
具体的には、成果の再現性を高めるために以下のような仕組みが導入されています。
- 営業トレーニングの標準化
- 商談同席やロールプレイ
- ケーススタディ / 成功事例の共有
- 進捗管理のフォーマット化
- 活動量の可視化
パートナー管理の本質は監視ではなく伴走です。自社と同じ熱量で動いてもらうために、動きやすい仕組みを体系的に設計することが成功の鍵となります。
成果が出るのに時間がかかる
パートナーセールスは、導入してすぐに成果が出るモデルではありません。多くの企業が6ヶ月〜1年の期間を必要とするのは、パートナー企業が自社商材を「理解し、提案し、営業プロセスに組み込むまで」に段階を踏む必要があるからです。
まず、パートナー営業担当者が商材理解を深める必要があり、顧客課題・競合比較・FAQ・提案ストーリーなどを習得するまでには一定の時間を要します。また、パートナー側の社内では自社商材が数ある取扱い商材のひとつに過ぎないため、優先順位が低くなることも一般的です。
さらに、パートナー企業の営業フローに自社商材を組み込むには、「どのタイミングで提案するのか」「誰がフォローするのか」といったオペレーションの調整が必要です。こうした調整は、短期間では定着しません。このため、短期成果を求めすぎて数ヶ月で撤退してしまうというのが典型的な失敗パターンです。
成功している企業は、6ヶ月〜1年を投資期間と捉え、継続的な教育・情報共有・成功体験の蓄積に力を入れています。成果が出るまでの時間を前提に組み込むことがパートナー戦略を機能させる条件です。
パートナー戦略は中長期戦です。導入してすぐ動くパートナーは存在しないので、教育・関係構築・フォローアップを積み重ねることで成果が現れます。短期成果を前提に設計されたパートナー戦略は、構造的に失敗しやすいと言えます。
チャネルコンフリクト(販路間の競合)
パートナーセールスにおける最大のデメリットの一つが、「チャネルコンフリクト(販路競合)」です。これは、自社の直接販売部門(直販)とパートナー企業、あるいはパートナー企業同士が、同一の顧客や案件を奪い合ってしまうことを指します。
チャネルコンフリクトが発生すると、以下のような深刻な問題が生じます。
- パートナーとの信頼関係の崩壊
- 価格競争による収益性の低下
- ブランドイメージの毀損
せっかく案件を発掘したパートナーが、後から介入してきた自社直販に案件を奪われれば、不信感が生じます。結果として「この会社の製品は扱わない」と離反を招き、協力体制が崩れる可能性があります。また、同一顧客に対し、複数のルートから異なる価格提示がなされると、顧客はより安い方を選びます。これにより不必要な値引き合戦が起こり、自社・パートナー双方の利益が削られてしまいます。
顧客窓口が混乱することで、組織連携が取れていない企業というネガティブな印象を与え、製品の信頼性まで損なう恐れがあります。
これらを防ぐには、明確な「レジストレーション(案件登録)制度」の構築が不可欠です。
【具体的なルールの例】
- 地域分け: 直販は首都圏、パートナーは地方
- 規模分け: 直販は大企業、パートナーは中小企業
- 業種分け: 直販は金融、パートナーは製造業など
- リード登録ルール: 先に商談化した方が優先
ルールが曖昧だと、直販・パートナー双方のモチベーション低下や離反を招きます。
先に案件を登録した側に優先権を与えるルールや、直販とパートナーでターゲットとする企業規模・エリアを切り分けるなど、厳格な交通整理が事業成長の鍵となります。
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パートナーセールスの仕事内容

パートナーセールスは「開拓・契約交渉・戦略設計・営業支援」と幅広い領域を担う役割であり、自社とパートナー企業をつなぐハブとして機能する職種です。単に販売を委託するのではなく、パートナーが継続的に成果を出すための仕組みづくりから伴走支援まで関わります。
仕事内容は以下です。
- 代理店の開拓・契約
- 代理店の営業戦略を立てる
- 代理店の営業のフォロー
論理的思考力・調整能力・関係構築力・営業理解など高度な総合スキルが求められます。
代理店の開拓・契約
パートナーセールスの重要な業務が代理店の開拓と契約です。単に代理店候補を増やせば良いわけではなく、自社商材と相性が良いパートナーを見極める力が成功を左右します。
具体的には、代理店開拓・契約において以下のような業務が発生します。
- 候補企業のリストアップ
- 商材説明
- 顧客基盤との相性評価
- 契約条件の調整
- パートナープログラムの設計
特に重要なのは、候補企業が自社商材を販売できるだけの顧客基盤を持っているか、組織として営業体制が確立しているか、経営層が商材を理解し協力的かといった土台の強さを見極めることです。
また、契約条件の作成では、インセンティブ設計・サポート範囲・リード共有ルールなど、双方にとって公平で継続的に運用可能な仕組みを構築する必要があります。これらはすべて、パートナー施策を短期的な数合わせではなく中長期で成果を生む仕組みにするための工程です。「契約=スタート」であり、パートナーの潜在価値を的確に評価し将来的な成長パートナーになりうる企業を選別する目利きこそ、パートナーセールスで求められるスキルと言えます。
代理店の営業戦略を立てる
パートナー企業は自社商材だけを扱うわけではなく、複数のサービスを取り扱うことが一般的です。そのため、どの顧客に、どのような価値で、どんな切り口で提案するかをパートナーと共に設計し、営業戦略を伴走する役割が必要となります。
具体的には、以下のような取り組みを通じて営業戦略を設計・支援します。
- ターゲット顧客像の明確化
- 訴求メッセージの整理
- 営業資料・トークスクリプトの提供
- キャンペーンの共同企画
とくに重要なのは、パートナー営業チームが売れるイメージを持てる状態を作ることです。売れる理由・刺さるメッセージ・顧客課題への解決ストーリーを一緒に整理することで、提案の再現性が高まり、商談数や成約率の向上につながります。
また、営業戦略は一度作って終わりではなく、市場変化・顧客反応・営業データをもとに継続的に改善していく必要があります。パートナーセールスは、戦略立案から実行支援まで一貫して関わることで、パートナーの成功確率を最大化する役割です。
代理店の営業のフォロー
パートナーが成果を出すには契約して放置するのではなく、継続的なフォローが欠かせません。
具体的には、以下のような営業フォロー施策が有効です。
- 商談同席による提案内容の具体的サポート
- 定例会での進捗管理
- 成功事例の共有
- FAQやナレッジの提供
これらは単なるサポートではなくパートナーを育てる育成プロセスであり、多くの企業が最も力を入れる領域です。
営業フォローの本質は、自社と同じレベルで売れる状態を再現することです。パートナー営業担当者は、商材理解の深さや営業スキルが異なります。そのため、トークの改善・顧客理解の補足・商談後の振り返りなどを通じて、再現性の高い売り方を定着させる必要があります。また、パートナー企業内で情報が分断されやすいため、ナレッジ管理や共有の仕組み化が成果に直結します。
結果として、パートナーが自走し始めると商談量が飛躍的に増え、自社単体では到達できない顧客層への拡大が可能になります。フォローは費用ではなく投資であり、長期的な成果を左右する最重要業務といえます。
パートナーセールス戦略を成功させるためのポイント
パートナーセールス戦略を成功させるためのポイントを確認しておきましょう。
- 成功事例を共有する
- インセンティブの導入
- 自社に合ったパートナーを選ぶ
- パートナーへの教育・支援を怠らない
- パートナーセールスが適した商材か見極める
パートナーセールスの成功のためには、短期的な目標ではなく、長期的な信頼関係の構築が重要です。また、数より質を重視し有望なパートナーを絞って深い関係を築くことが成功のカギとなります。
最初のパートナー選定で成功するかは8割決まります。残り2割をパートナーの育成で伸ばすイメージを持ちましょう。良いパートナー選定ができないと、いくら戦略を積んでも成果は出ません。
成功事例を共有する
成功事例の共有は、パートナーセールスにおいて極めて重要です。パートナーが動く最大のモチベーションは、「成功を再現できるイメージ」が見えることだからです。
特に、以下のような情報を整理して共有することが重要です。
- どんな顧客が購入したか
- どの提案が刺さったか
- 初回受注までの具体的プロセスは何か
これらの情報を体系化して共有することで、パートナーの営業活動は加速します。特に、成功事例には売れる理由が詰まっているので、パートナー営業担当者の理解を深めるうえでも極めて有効です。
また、成功事例を定期的にアップデートし、月次や四半期単位で共有することでパートナーは常に最新の成功例を把握できます。この仕組みがある企業は商談化スピード・成約率・活動量が飛躍的に伸びる傾向があります。逆に、成功事例が共有されない環境ではパートナーの動きは鈍化し、商材理解も進まず営業現場に混乱が生じやすくなります。
成功事例は、パートナーが自信を持って提案するための強力な裏付けです。これを戦略的に整備できる企業ほどパートナーセールスの成功率が高まります。成功事例の蓄積と共有は、パートナーセールスを属人的な取り組みから再現性のある成長モデルへと引き上げます。
インセンティブの導入
パートナーセールスの成功のためにはインセンティブの導入も重要です。取り扱い商材が複数ある中で、パートナーが自社商材を積極的に提案する理由となるからです。インセンティブはパートナーの営業優先順位を決める重要な仕組みです。
特に有効なのは、成果に比例した以下のようなインセンティブです。
- 初回受注ボーナス
- 月間売上達成ボーナス
- 販売強化月の設定
インセンティブ設計が弱い場合、パートナー企業内で自社商材の優先度が下がり営業活動が停滞します。逆に、魅力的なインセンティブがあると、営業担当者が売る理由を持てるため、商談量と提案数が大きく増加します。また、インセンティブは短期成果だけでなく、中長期の継続販売にも影響するため契約設計の段階から戦略的に組み込む必要があります。
さらに、報酬だけでなく「表彰制度」「共同マーケティング」「特別サポート」などの非金銭的インセンティブも効果的で、パートナーのエンゲージメント向上に役立ちます。インセンティブはお金の話ではなくパートナーの優先順位を高める仕組みです。
ですが、パートナー企業は複数の商材を扱っていることが多いので、インセンティブだけでは優先的に自社商品を販売してくれるわけではありません。パートナーに「売りたい」「紹介したい」と思ってもらうためには、日常的に信頼関係を築いていくことが重要になります。
自社に合ったパートナーを選ぶ
パートナーセールス戦略において、最も成果を左右するのがパートナー選定です。
優れたパートナーの条件は以下です。
- 顧客基盤が自社ターゲットと一致している
- 経営層が商材に強い共感を持っている
- 営業組織が整っている
- 導入後のフォロー体制がある
これらの条件が揃うパートナーは、育成コストが低く成果が出るまでのスピードも速い傾向があります。
逆に、
- とりあえず扱いたいと言うだけの企業
- 担当者が頻繁に変わる企業
- 顧客基盤が適合しない企業
- 経営層の理解が薄い企業
は成功しにくく多くの時間を浪費します。どれだけ戦略・仕組み・インセンティブを整えても、土台となるパートナー選定を誤ると成果は出ません。
実際、パートナーセールスの成功企業は最初の選定を徹底的に行っており、面談・企業調査・過去実績・商材との親和性などを多面的に評価した上で慎重に契約しています。
成功の80%は選定で決まると言われるほど、パートナーセールスにおける最重要ポイントです。
パートナーへの教育・支援を怠らない
パートナーへを支援し信頼関係を築くことが最も重要です。パートナービジネスで失敗しやすいケースは、契約を結ぶことがゴールになってしまい、その後の教育や営業支援を怠るパターンだからです。初期成果が出ない原因をパートナーの営業力不足として、条件変更や打ち切りを検討する企業は失敗しがち。こうした姿勢はパートナー側にも伝わり、優先順位を下げられる悪循環を生んでしまいます。
持続的に成果を出している企業は、パートナーに「売ってもらう」のではなく、パートナーが即座に提案できるような資料や事例集を提供したり、パートナーの利益になるような持続可能なインセンティブの設計をしています。成果を出すためには、パートナーを共に市場を切り拓く対等なビジネスパートナーとして尊重するというスタンスが重要です。
また、パートナーセールスの成否は、パートナーの数ではなく質、つまり自社と足並みをそろえて動けるパートナーを厳選し支援していくことにかかっています。数が多すぎると、一社あたりのフォローがおろそかになり、結局一部のパートナーしか稼働しないという結果になりがちだからです。
一社当たりのサポートが手薄になることで、パートナーの商品理解が進まず「売りたい」という意欲につながりません。また、自社の理念やプロダクトの価値を深く理解していないパートナーによって、市場での信頼を損なうリスクもあります。
まずは代理店の数を増やそうという戦略をとりがちですが、闇雲に増やしてもリソースが分散され質の低下を招くことにつながりかねません。最初は特定の数社と密に連携し狭く深く支援を集中させることが、パートナーセールスの成功のカギとなります。
パートナーセールスが適した商材か見極める
自社商材の特性がパートナーセールスに適しているかを冷静に見極めることが重要です。すべての商材がパートナーセールスに適しているわけではないからです。
まず、パートナーモデルが機能しやすいのは「高単価・高粗利」な商材です。パートナーにとって魅力的な手数料が確保できるだけでなく、導入支援や運用支援などの付随業務が発生するものであれば、パートナー独自の付加価値を上乗せでき、協業のメリットが生まれます。また、特定の地域や業界に深く根付いた顧客基盤を必要とするサービスも、パートナーのネットワークが最大の武器となります。
一方で、低単価で利益率の低い商材は、パートナーが動くための経済的な動機付けが弱いため適していません。また、製品の導入に極めて高度な専門知識を要する場合、パートナー側で提案や説明が完結できず、結局自社の工数が減らないという事態に陥ります。さらに、競合が激しく価格競争が常態化している市場では、ブランド毀損のリスクが高まるだけでなく、パートナーの疲弊を招くだけの結果になりかねません。
自社商材がパートナーに「売る理由」を提供できるものかどうか、慎重な検討が求められます。
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パートナーセールスの成功事例
パートナーセールスの成功事例として、以下の3社を紹介します。
- マネーフォワード
- ベルフェイス
- AI inside
マネーフォワード
マネーフォワードの成功は、経営者の信頼が厚い税理士・会計事務所を戦略的パートナーに据えたことにあります。
税理士が顧問先への業務効率化提案の一環として導入し、会計・給与の相談タイミングで自然に提案。これにより、税理士にとっては記帳代行の工数削減と高度な経営コンサルティングの実現という明確なメリットが生まれました。
単に製品を売ってもらうのではなく、パートナー(税理士)の業務の延長で提案でき、付加価値を高める支援を徹底したことで、税理士が自ら顧問先へ導入を推奨する強力な推薦サイクルを確立しました。これによりパートナー経由ユーザー数が約15倍に成長し、パートナー戦略の教科書的な事例となっています。
ベルフェイス
ベルフェイスは、地方銀行や金融機関とのアライアンスを通じて、自社単独では入り込みにくい金融・地方市場での導入を拡大してきました。
地方銀行の行内利用や取引先支援の文脈に組み込まれることで、銀行にとっては本業支援の実績となり、ベルフェイスにとっては銀行の信頼を活用した地域展開が可能になっています。bellFace単体ではなく営業DXの実装ツールとして売られていて、パートナー側はコンサル費用・システム導入費を確保しやすいというメリットがあります。
近年では、生成AIを活用した bellSalesAI を金融機関の営業・提案プロセスに段階的に導入し、単なるツール提供を超えた協業関係を築きつつあります。
AI inside
AI insideは、パートナーが主導して案件を作れるための徹底した仕組み化で成功しています。
AI insideは、ITベンダーやNTTデータといった強力な販路を持つパートナーと提携していますが、単に契約を増やすのではなく売れる営業担当者を育てることに注力しました。具体的には、実際に成果を出したパートナーの営業手法をインタビューし、「なぜ売れたのか」を分析。その成功体験を提案資料として型化し、他のパートナーへ横展開するサイクルを回しました。
パートナー企業の中には、AI insideの製品をRPA導入・BPR案件の一部として提案する企業も多く、パートナーとの協業を通じて、全国への販売ネットワークを拡大しています。
まとめ
パートナーセールスは、代理店など外部パートナーが自社製品を販売するモデルです。直販だけでは届かない市場に、効率的に拡大できる点が強みです。SaaS企業ではキャズム突破にも重要とされています。販路拡大や営業コスト削減のメリットがある一方、パートナー管理の難しさや成果がでるまで時間がかかることが課題です。
成功のためには、成功事例共有・インセンティブ設計・相性の良いパートナー選定が不可欠です。特にパートナーセールス戦略は、誰をパートナーにするか、どれだけ信頼関係を築けるかでうまくいくかどうかが決まります。
パートナーセールスはSaaS・IT企業だけでなく、多くの業界で通用する販売モデルです。ですが、適さない商材や業界もあるので、自社の商材が適しているのかは慎重に判断する必要があります。
自社の商材・市場・成長フェーズに合ったパートナー戦略の構築を、ぜひ検討してみてください。